認知科学者は道徳の生物学的基盤を明らかにしようと試みている。ポール・チャーチランドは『 Toward a Cognitive Neurobiology of the Moral Virtues』でニューラルネットワークモデルによって道徳心の発達を明らかにしようとした。ジョシュア・グリーン、マーク・ハウザー、ジョナサン・ハイト、ポール・ブルームを含む他の研究者は道徳心に遺伝的基盤があり、道徳判断と感情は密接に結びついていると考えている。彼らは理性と同じくらい感情、脳、他の動物と人類の進化について注目している。
グリーンらは道徳的ジレンマに関するトロッコ問題を人々に質問した。
暴走するトロッコのレールの先に5人がおり、逃げる暇はない。途中で分岐があり、その先には1人がいる。テッドは線路の分岐を切り替えることができる。切り替えれば5人は助かるが1人は死ぬ。テッドがポイントを切り替えることは道徳的に見て許されますか?
暴走するトロッコのレールの先に5人がおり、逃げる暇はない。レールの上に橋が架かっており、テッドはその上にいる。テッドの隣には太った人がいて、その人を突き落とせばトロッコは止まる。テッドがその人を突き落とすことは道徳的に見て許されますか?
どちらも1人が死んで5人が助かるか、5人が死んで1人が助かるという点で等しい。もし道徳判断が理性的に行われるのであれば、回答は一貫しているはずである。しかし多くの人は先の質問には許されると答えるが、後の質問には許されないと答える(つまり一貫していない)。そしてその理由を明確に答えられない。この傾向は有神論者でも無神論者でも変わらず[14]、西洋文明とほとんど接触のないカリブのクナ族(トロッコはカヌーに置き換えられた)でも同様であった。
ハイトによれば、多くの場合に道徳的判断は直観的に行われ、判断の後に合理的な理由付けが行われる。アメリカ、ポルトガル、ブラジルの人々に次のようなストーリーを話し、その行為は許されるかどうか質問した。
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愛犬が交通事故で死んだとき、イヌがおいしいと聞いていた家族は愛犬を調理してディナーで食べた。
ある兄妹はキスをするのが好きで、周りに誰もいないときに人に見つからない場所を探して激しくキスをした。
被験者の多くが誰かを傷つけたり権利を侵害する行為でなければ規制されるべきではないと考えていたにもかかわらず、4割から8割の被験者がこれらの行為は許されないと判断した。そしてその理由を上手く説明できなかった[5]。 人間の道徳判断は二重過程理論に基づいており、直観的な道徳推論システムは次の五つにモジュール化されている。危害/親切、公正さ/互恵関係、グループ性/忠誠、権威/尊敬、純粋さ/高潔さ [20]。これらは進化の過程で異なる目的を果たすために形成された。少なくとも規範の学習が始まる前に発達し、文化普遍的な道徳と文化ごとに多様な規範を作り出す。彼によれば、進化の産物であるために判断は直観的であり、微妙な道徳ジレンマを上手く解くことができない[21]。
ハウザーによれば道徳には普遍文法のような生得的で基本的な文法、「道徳普遍文法」が存在し、それが社会的状況や経験の変数により異なる規範を作り出す。テュリエルはわずかな変数の違いとして人工妊娠中絶の議論を例にとる。プロライフとプロチョイスは中絶を非道徳的と見なすか見なさないかで鋭く対立する。しかし双方とも命に対する価値観が異なるのではなく、どの時点から命と見なすかが異なる。そして「いつ胎児はヒトになるのか」の直観的信念に基づいて賛成/反対の判断が行われると指摘する。